「美味しいかどうかは味の保証はないからね?」


と、何度も念を押されて、苦笑しながら巾着のヒモを解く。


ぱか


フタを開けると、キラキラと輝いて見えるあやっちの手作り感満載なおかずの山。
それらを見つめて、ほぅ…と溜息を付くと、あやっちの不安そうな視線を感じる。
だから、にっこりと微笑んでからオレは両手を合わせていただきますをすると、オーダーした卵焼きを口に入れた。


「…んっ…ま!!」

「ほ、ほんと?」

「ほんと!あやっち、めっちゃ料理上手だねぇ〜。良いお嫁さんになれるねっ!」

「よ、〜…っ?!」


オレの発言の何が、あやっちのどこにハマったのか分かんないけど、真っ赤になってるあやっちを横目に、オレはどんどん箸を進めた。


そして、数分後…。



「はぁー…美味しかったぁ。あやっち、ありがとう〜」

「おそまつさまでした」

「なんで?滅茶苦茶美味しかったよ?」

「いいの!普通はそう言うでしょ!」


ずーっと顔の赤いあやっち。
それをきょとんとした顔をして見ると、あやっちはオレの顔を見つめながら、小さく唸った。


「んー?」

「もー…翔太ってば色々反則…」

「なんで?」

「ご飯の食べっぷりとか…ほんとなんでそんなに格好いいのよ〜……」


ぷしゅ〜…


耳の後ろまで真っ赤にして…そんなことを言うあやっちに、オレは差し出されて飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。


「ぶっ…」

「翔太…きたない」

「ご、ごめ…っでも!これはぁ、あやっちが悪いよー?」

「なんでよ?」

「だって、か、格好いいとか…」

「そんなの初めて会った時から思ってたよ?」


こてん


小首を傾げるあやっち。


それこそ、反則。

てか、なんでここで二人バカップルみたいなことしてんの?!


「あやっちは小悪魔だよね!」

「じゃあ、翔太は帝王ね!」

「〜〜?!」


ああ言えばこう言う。
でもそれがすごく、嬉しくて楽しくてにまにまが止まらない。


「翔太…?指、まだ痛い?」

「んー?や、痛くないよ?」

「ほんと?」

「ほんと、ほんと」

「じゃあ、見せて?」

「………」


思わず無言で…おずおずと指先を見せると、やっぱり悲しそうな顔をして、そっとオレの手に触れた。


「ばか…ほんとに、ばか…なんだから」

「あやっち…」


オレは静かにお弁当箱を自分の横にやると、あやっちの顔を覗き込むようにしてもう片方の手で触れられた手を包み込んだ。


「オレさ、やっぱり…あやっちが好きだよ?」

「…ん」

「どんな、あやっちも。好きでい続ける自信あるんだ。だって、オレ…ずーっとずっとあやっちを見てきたから」

「しょ、た…」


囁くようにそう言えば、長いまつ毛を震わせて、あやっちが漸くちゃんとオレの方を見てくれた。

そっとそっと、オレの指先に触れてくれる、あやっち。

愛しくて、すごく好きで好きで堪らなくて…。

思わずキスをしてしまいそうなオレより先に、あやっちの柔らかな口唇が、オレのテーピングをしたままの指に触れた。


「…っ」

「すき…」

「あやっち…?」

「……すき……」


こんなことってあるのかな。
自分の好きな人が、自分を好きになってくれるなんて、そんな低いだろう確率なことが…起こるんだろうか…。


「あやっち…オレも、好きだよ。どうしようもないくらい、あやっちに惹かれてる。だから、責任…取らせて?」

「…うん…翔太…す…、」

「ごめんね、それはオレに直接ちょーだい?」

「…ん、」


オレは、謝りつつもついばむようなキスを落として、あやっちを強く抱き締めた。