さかさかと、長い足を使って颯爽と廊下を歩いていく石井ちゃんの後姿を見ていたら、ムカムカとした気持ちが競り上がってくる。


なんで、そんなに平気な顔が出来るんだ、と。
なんで、そんなに平然とあやっちを傷付けられるんだ、と…。


「石井ちゃん!」


職員室の一歩手前。
突き止めたのは、その近くにある階段の踊り場で、呼び止められた石井ちゃんは、少しだけ不機嫌そうな顔でこっちを振り返った。


それがまた癪に障る。


こういうズルい大人の一挙一動に、あやっちの心が摩耗して傷付けられているのかと思ったら、自分でも信じられないくらい冷たい声色が喉元から発せられた。


人の、『好き』って気持ちは、絶対に簡単なもんなんかじゃない。

そう俺に教えてくれたのは、紛れもなくあやっちの存在で…。

だからこそ、石井ちゃんには一言言っておきたかった。

弄ぶつもりなら、とことん戦うし。
そうでもないなら、もう解放して欲しい…と。

あんな風に、背中を見ただけで悲しみに暮れてるのが分かるくらい、泣いているだろうことが分かるくらい、オレはあやっちを好きだから。


好きだから…好きだから、大切にしたいんだ…。
オレ以外を好きだとしても、一途な彼女を大切にしたい。

もしかしたら、じゃなくても…今はまだ届けられない想い。

だから、その分キミのためにオレは悪者にだってなれるよ…。


キミの好きな人に向かって、宣戦布告をするために、なんだって出来る。


「…許さないから」


ありったけの強い想いを込めて。
石井ちゃんのしている行動を非難した。


ねぇ?
あやっち…?

『好き』って、そんなに簡単なもんなんかじゃない。
自分でもなかなか制御出来ないものだから…。

どうか、自分を責めないで?
どうか、自分を慈しんで、その恋ゴロロを優しく撫でて。


いつか、オレの…。
この想いにも気付いて下さい。

それが、遠い日になったとしても、それでもオレはあやっちをずっと思っているから…。