「ちょっ!それ、私の分じゃない!支払うって!」

「いいの、いいの、オレの我がままに付き合ってもらうんだから、これくらいさせてよ〜」


そして即、にこにこと微笑んで支払いを済ませてしまった。


なんていうか、やっぱり憎めないというか…。
結構やってること強引なのに、なんで翔太がするとこれっぽっちも嫌味がないんだろう。


…これも、イケメン効果ってやつ?


「はい!あやっち。あやっちのは赤だね。オレは青〜」

「翔太って、青好きなの?」

「んー?じゃあ、あやっちはなんで赤?」


質問に質問返しはずるくないか?

そうは思うも"なんとなく赤は翔太のイメージだったから"なんてことを口には出来ず。


「一番、目を引いたからだよ」


と、曖昧に答えた。


「これさぁ、出来ればあやっちのお守りにしてよ」

「はぃ?」

「あやっちは、一人じゃないから、ね?なんか辛いことあったら、思い出して?」

「…ん。ありがとう」



私の心は、日毎分裂していくようだ。
彼を好きな自分に勝手に傷付き、それを懸命に癒やしてくれようとしてる翔太にどこかでときめいている。

こんなどちら付かずの自分が許せなくて、私は雑貨屋さんを出た後、クレーンゲームのお返しだと言って、ファミレスで少しだけお茶をした後、送って行くと言い張る翔太と無理やり別れて、一人一歩一歩踏み締めるように、家への道を歩んだ。

そして、一つだけ飛ばした駅から電車に乗ろうとして固まる。


「…なんで?」


そこには、学校の職員が乗る車の運転席に乗った彼がいて。
路肩に車を停車させると、窓から長い腕を伸ばして触れているのは、紛れもなく小桜の綺麗過ぎる髪だった。

 
「神谷、じゃあ気を付けて帰れよ」

「んもー!石井ちゃん!髪わしゃわしゃしないでよぉ!…でも、送ってくれてありがと」


なんて、まるで恋人同士の甘い会話さえ聞こえてくる。


私の心臓はドクドクと冷たく音を立てていく。

そして、私が動けないままでいると、小桜はこちらには気付かずにそのまま前を向いて歩いていってしまった。

でも…。
彼は。

バックミラーで私のことを見つけたのか、一瞬驚いた顔をしたけれど、薄く笑ってから後ろ手に手をひらひらと振って、車を発進させて行ってしまった。


私は、自分の肩に落ちた小さな葉っぱを、粉々にするくらい力を込めて握り締め、なんとか泣くことを堪える。

だけど、そのまま小桜の後を追うなんてことが出来ずに、凍ってしまったかのような足元に視線をやった。


ずるい。
ひどい。

なんでそんなことをわざわざするの?
想いが届かないのも、伝えられないのも分っていて私からはほとんど行動を起こしてないというのに…。

彼はわざと自分が私から嫌われるようなことをしてくる。

好きと伝えられないならば、せめて好きでくらいいさせて欲しいのに、それすら彼は拒むのか…。
そんなに私の想いは彼にとって迷惑でしかないのか…。


そんなことを思ったら、つぅーっと涙が頬を伝い、もうどうでも良くなった。


もう、こんな想いは捨ててしまおう。
何度も何度もそう言い聞かせては、未練がましくしがみついていていた「好き」という気持ち。


でも…。


「…ふ、っ…っ。ねぇ…?『好き』って一体なんなんだろう…っ?」


震える手で、翔太からもらったキーホルダーをコートのポケットから出して、私は答えを求めるように、それに向かって切ない問いを投げ掛けた…。