志田からの申し出を断って、数日。
本当にあの時の志田はどこいった?
というくらい、普通に接せられ拍子抜けをしている俺。

そして、焼けていくくらいの熱い視線は、ぼんやりとした空の視線となった。


「あー…ここんとこは別に大したことねぇーから、こっちの方覚えとけー?テストに出んぞ。…多分な」

「やだー!石井ちゃん、それじゃ混乱するじゃーん!」

「んなこた、知らねーよ。つか、こういう覚え方の方が刺激的だろ?」

「ぎゃははっ!石井ちゃん、やらしー」

「うるせぇよ」


そんな、バカげた会話を生徒としている間も、視線は自然と神谷と須賀…そして、須賀の隣の志田の方にいく。


いつも以上に、須賀の世話を焼く神谷。
それを素直に受けている須賀。

その向こう側。

じっと黒板に書いた俺の字を見つめ、ノートに目をやってはそれらを書き込んでいく、の繰り返し。
俺の方は見ることもしない。

そして、それ以上にその表情にはなんの覇気も感じられない。

ただ、


「少し痩せたか…?」


よくよく見れば顔色も悪いような気がする。
志田は、俺が担当になってから…いやそれ以前もだったんだろうが、けして弱音を吐くことをしない。


そういや、志田のことをちゃんと知ろうともしてねぇな、俺は。


それは、教師としては最低だけれど、男としては仕方がないことで…。


片想いの恋ゴコロを持たれた相手に、ほいほいイイ顔ばかりするようなやつぁ、本当にろくでもない。

それが大切な生徒なら、余計。


…大切な生徒…?


だったら、神谷はなんなんだ?
俺の中で、どういう位置にいる…?

もう、訳が分からない。
好きだ腫れたのすったもんだは、もうどうでもいいと思っているのに。

気付けば、その渦中にすっぽり囚われていて、身動きが取れないでいる。


「んー…しゃーねぇな…」


俺は、コンコンと小さく黒板を青のチョークで突いて、暫し思案する。

心を強くするには、多少荒行だとしてもキツい態度を取らなければならない。


けれど、それで心どころか体まで壊してしまったら、元も子もない。

だから、葛藤するんだよな…。


人間、本当は孤独に慣れてる。
大切に守られているとはいえ、結局最後は一人で産まれてくるんだ、当然だろう?

胎内で外界のことを聞き想像して、色んな思いを抱いて、この世に出てくる。

その抱えた思いは、薄れた意識の薄い膜の下に沈んで、くるくると廻っては更に下へと落ちていく。

その欠片が、胸に刺さったままの状態で、育っていくんだから、当たり前のことだ。

だから、慣れているはずの感覚を呼び覚ます為に、俺はやっぱり敢えて厳しい態度を取り続けることを決意する。

そして、それにプラスして、神谷に対しての態度も自分なりに変えてみようと思った。