嫌だとか気持ち悪いという感情は灯の中にはなかった。むしろ、自分のことをきちんと知ることができ、嬉しいとさえ思った。

そして、性という枠組みを必要としない恋は今、雫に向けられている。そんな雫は灯が何度目かわからない告白をした時、「私は無性愛者なの」と教えてくれた。

無性愛者とは、他人に対して恋愛感情を抱かない人のことである。つまり、どれだけ灯が雫に想いを伝えても、その想いは届かないと決まっているのだ。

これは、そんな正反対のマイノリティを持つ二人のお話である。



今日の午後は一コマしか授業がない。いつもなら、灯はバイトに行ってしまうのだが、今日は雫と共に大学に残っている。

来月、この大学では学園祭が行われる。多くの人が盛り上がる大切なイベントだ。灯と雫が入っているサークルはお化け屋敷をすることになり、その準備をすることになったのである。ちなみに、教室にいるのは二人だけだ。

「こうやって教室で二人きりなんて、めちゃくちゃドキドキするね」