「その後は、言ったとおり。俺の名前なんか聞かないで、一華さん寝ちゃった。ほんと俺、お預け食らってばっかなんだよ? 」


明るく言った声が、悲しそうに震えてる。
まるで、この先どうなるか、もう受け入れてしまったみたいに。


「どうして、帰らないでいてくれたの? 」

「それも言ったみたいに、ユウさんのことが気がかりだったのと……そんな自分が不思議だったから」


変なの。
キスだってハグだって、それ以上に特別な関係でなければ、普通触れないところ、もう触られてるのに。
頬や目尻まで指先が届くのがやっとみたいに、実くんの手が重い。


「他人なのに、初対面なのに。誰かと話すとか、触るとか。俺、絶対無理なのに。単なるセックスどころか、イチャイチャするふりがすごく楽しくて……気持ちよかった。これ、何なんだろって」


でも、何となく分かる。
それって、自意識過剰かな。
でも、その理由のもとが、私のものと同じなら。


「俺をそうしたの、一華さんだから。……だから、また好きになってもらえるようにする。負けない」


何と戦おうとしてるんだろ。
可愛くてキュンとして思わず笑うと、不貞腐れてたけど。


「実くん、私ね。実くんに会えて、一緒に過ごして、リストにないことたくさんできたよ」


キスも、デートも。
リストにできなかったのは、本当はもっと事前に経験したいことは、最初から諦めていたから。つまり、本当は始めにしたい一番のことは。


「恋、できたよ」

「……うん」


誰かを好きになること。
年齢とか、気になること全部、消えはしないけど。
抱えたままでも好きで、どうしようもないってこと。


「それに、増えてる。本当は、したいこともっとたくさんあったんだなって。実くんといると、素直に認められる」


知れたのは、実くんだから。だから。


「……なのに、もう一回告白しないとだめですか……? 」


時間、置いて?


(………………いや!! )


「……お姉さん、みのりくんより時間貴重なので。できれば、ですね……」


――せっかくの恋、リセットしたくないんです。


「……っ、いいの!? ……って、今のナシ。撤回させない。だめ、絶対」


しーっ、って。
何も言わせないとばかりに、唇の隙間を縫うように親指が這う。


「告白は、何度だってしてほしいかな。俺のこと、好きって言って。それなら、喋ってもいいよ。でも、やっぱやめた、って唇が動いたら……」

「……ん……」


閉じてた唇が、言われたそばから開く。
そんなふうに言われたら、そんなつもりないのに試してみたくなるのは、期待でしかない。


「……ありがと。あれ、ちゃんと断るし、絶対書かないから」


――俺に叶えさせて。一華さんのしたいコト、全部。