「……俺、ライターなんだけど」


画面に映った文字列を見て、特に何も感じないと思ってた。


「たまたま、そのクライアントと顔合わせして、気に入られて。俺の文章がじゃなくて、顔をね」


でも、実くんの声で言われると、一気にずしんと心にのし掛かってくる。
傷つく理由を思えば、尚更。


「それから、こういう記事ばっかり依頼されて嫌気が差すのに、生活の為に受けて、また嫌になって……。だってさ、俺、モテはするけど、恋愛上手なわけでもないじゃん。どこかで、せっかく読んでくれた人騙す自分にうんざりしてた。一華さんに会ったのは、そんな時」


『だーいじょうぶだって。私には何も起きないよ』

『なにが、だーいじょうぶよ。あんな会話に付き合わされたとはいえ、イチは女なんだから。こんな時間に歩いて帰るとかさせらんない。っていうか、イチの家そんな距離にないでしょうが。こら、ふらふらするな! 』


「店出たところで、ユウさんと騒いでた。あんだけ酔っぱらってたら目立つし、ちょっと変な組み合わせだからつい目がいって……タクシー乗らなかったの見ちゃったんだ。そしたら一華さん、その後すぐ踞っちゃって」


『……ねえ。大丈夫? 』


よく声掛けてくれたな。
普通、巻き込まれないように放っとくか、チラチラ見るだけで終わるだろうに。


「迷ったし、自分でもびっくりした。放っとけない、なんて……俺、そんなタイプじゃないし」


『……酔ってないから、そっちは大丈夫です』

『……酔ってなくて大丈夫な人は、こんなとこにしゃがんだりしないと思うけど。……そっち? 』


その先を、まだ思い出せないのに。
聞いた話を想像するだけで、頬が熱い。


『……もう、いい……。言うだけ、言う』

『何がだよ……会って数分の初対面の他人になに、を……』


――よかったら、私とセックスしてくれませんか。


「衝撃だったよ。そりゃ、そうでしょ」


『…………………は? 』

『いいの、分かってるから。ダメに決まってるし、私なんかとするわけないよね。分かってますよーだ』


「でも、そこでもう俺、迷ってたよ」


『……何言ってるか、分かってる? 』

『分かってる。聞き間違いでもない。だから、セッ……』

『何回も言わなくていいから。面白いけど、ここ道端ね。なんでタクシー降りたの……また呼んであげるから、大人しく……』

『いや』


――このままはもう、いやなの。