(どちらの彼を、信じたらいいんだろう)
黒い靄をまとった咲耶と、今、慈愛に満ちた目で吉乃を見つめる咲耶。
ふたりは同一人物とは思えないほど、まとう空気がまったく違い、吉乃は困惑してしまった。
「それでは行くぞ」
けれど次の瞬間、予告なく身体が宙に浮いて、吉乃の口からは短い悲鳴が漏れる。
「ひゃっ……!」
(う、嘘っ)
咲耶が、吉乃を軽々と抱え上げたのだ。
いわゆるお姫様抱っこをされた吉乃は驚き、思わず挙動不審になった。
「あ、あの! 私、自分の足で歩けるので下ろしてください!」
慌てて抗議をしたが、咲耶が応じる気配はない。
まだ彼を信じていいものかどうか悩んでいる最中なのに、こんなことをされたら、余計に冷静な判断ができなくなってしまう。



