彼はもうすぐ空の向こうからやってくる。そういえば、天澤さんが操縦する飛行機の離発着はちゃんと見たことがないと気づき、好奇心がむくむくと膨らむ。
駅へ行く前に私は足を止め、美紅さんに向き直った。
「私、せっかくなので天澤さんの勇姿を見てから帰ります」
「えー! 元気だねぇ。私はもうさっさと帰って一杯やりたいよ」
オジサンみたいな調子で言う彼女は、笑顔で「じゃあ、また明日ね」と手を振って先に駅へと向かっていった。
私は足早に屋上の展望デッキを目指す。風が強いので第二ターミナルの屋内のデッキで見たいところだが、目的の飛行機が使う予定の滑走路はこの第一ターミナルからのほうがよく見えるのだ。
デッキに出てみると、やはりこの天候のせいか人はあまりいない。柵に近づいて、遠くの空に目を凝らしたとき、ナビゲーションライトの光が見えた。
機体がこちらにだんだんと迫ってきて、日本アビエーションのロゴも視認できる。ロンドンからの便で間違いないだろう。
天澤さんが今、百数十人の乗客を乗せたあのシップを操縦している。そう考えるだけで胸が熱くなり、込み上げるものを感じた。



