もちろんそれはわかっているけれど、私は青空をフライトするのは気分がいいよね、っていう単純な意味で言ったのだ。そもそもお気楽発言をしたからって、危機感をなくしたわけではないし。

 仏頂面をする私を、彼は切れ長の瞳でちらりと見下ろす。


「へえ、天気図を反対に貼ってるくらいだから知らないのかと」
「え」


 淡々と言われて天気図に目線を戻すと、一枚逆さまに貼ってある用紙を見つけて「あっ!?」と声を上げた。

 本当だ、こんな間抜けなミスはやらかさないと心に誓ったのに!

 慌てて貼り直す私を見て、天澤さんはおかしそうにくくっと喉を鳴らす。冷たい瞳が柔らかく細められる瞬間だけは、ちょっぴり胸が疼く。


「蒼麻との交信は不安しかないな」


 しかし次いで放たれたひと言で、ときめきの輝きがくすんだ。

 私たちオペレーション担当は、カンパニーラジオという社内無線で飛行中のパイロットと情報交換をする。

 私も無線の資格は持っていて、日本人パイロットとの社内無線だったらすでにひとりでこなしている。天澤さんとも何度か行ったというのに。