羽田空港から離発着する飛行機の運航管理を行っている航務課が私の戦場。いくつかある部門の中、空港周辺の天候や空港施設の状況、飛行ルートのアドバイスなどをパイロットに伝える部門に所属している。

 ……と言っても、二十四歳の私は入社三年目の補助者という立場で、ひとり立ちするためにまだまだ勉強中の身なのだけれど。

 出勤してまずやるべき仕事は、気象庁が出している天気図や大気解析図などの資料を印刷して掲示すること。これが十枚以上になるので、最初はどれを印刷するか覚えるだけで大変だった。

 ひと通りボードに掲示して、ふうと息をつく。ざっと見たところ、空や風の状態は概ね良好そうだ。


「梅雨も明けたし、いいフライトになりそうだなぁ」
「お気楽なもんだな」


 口元を緩めて呟いた直後、隣から呆れ気味の低い声が聞こえてギクリとする。

 勢いよく振り向いた私の目に、三本ラインが入った肩章が飛び込んでくる。そのまま目線を上げると、予想通りの制服姿の男性がクールな表情で天気図を見つめていた。

 彼は天澤(あまさわ) 千里(せんり)、三十二歳。大手航空会社である日本アビエーションの、機長になるのも目前だと言われているエリート副操縦士だ。