「わかりました。しましょう、結婚」


 私の答えに、天澤さんは珍しく面食らったような顔をした。それは次第に、驚きと呆れが交ざったものに変化していく。


「お前……そんな簡単に結婚を決めるなよ」
「提案してきたのはどなたでしたっけ!?」
「本当に承諾するバカがいるか」


 今度ははっきりバカって言った!とむくれつつも、私はわりと真剣に考えているのだということを訴える。


「天澤さんが本気で結婚を条件にするのなら、それを呑むくらいの覚悟はあるってことです。私にとっては、今普通に生活できなくなるほうが困るんです。背に腹は代えられません。それに、意外と結婚するメリットはあると思うので」


 つらつらと語る私に、天澤さんは訝しげな視線を向けてくる。


「余計な出費をせず生活ができるのと、ほかには?」
「父親にあれこれ干渉されなくなります」


 ずばりこれだ。結婚すれば、父はきっと今よりは干渉しなくなるはずだし、それだけでだいぶ気が楽になる。


「あと、ふたりのほうが生きていきやすい気がします」


 結婚するって極論こういうことでもあるんじゃないかと思いながら言うと、彼がぴくりと反応を示した。