天澤さんは抑揚のない声で放ち、挑発的な瞳で私を見下ろす。


「俺の部屋に来るなら、すべて捧げるつもりで来い。その覚悟があるなら認めてやるよ、同居」


 まるで悪魔のような黒い笑みを浮かべる彼に、私は絶句した。

 この人、本気で言っているの? 本気で私と結婚しようと? いや、絶対になにか裏があるはず。

 突然結婚を条件にする真意がわからず、怪訝さを露わにした視線を向けていると、彼は意地悪に口角を上げたまま言う。


「ほら、嫌だろ」


 私を手のひらで転がしているような余裕を見せる彼のひと言でピンときた。

 わかったわ。到底無理な条件を出せば、私が諦めると踏んでいるのだ。意地悪な自分とは絶対無理だろうって。

 それに、ハイスペックイケメンの天澤さんと結婚なんて、普通に考えたらできるわけがない。彼を狙っている女性陣からの嫉妬や非難を間違いなく受けると想像がつくのに、あえて矢面に立つほどの勇気はないもの。

 でも今は悠長なことは言っていられない。なにせ生活が懸かっているのだから。

 しばし思案してその気持ちが勝った私は、ひとつ深呼吸をしてすっと背筋を伸ばし、目の前の彼を見つめる。