私は姿勢を正し、改まって天澤さんを正面から見つめる。
「あの、無理を承知でお願いします」
「断る」
「まだなにも言ってませんよ」
お願いを口にする前から出鼻をくじかれ、脱力した。彼はとても迷惑そうな顔で腕組みをする。
「聞かなくてもわかる。俺の部屋に居候したいんだろ」
「その通りでございます」
丁寧に深々と頭を下げた。簡単には引き下がれないので、一縷の望みに懸けてなんとか粘る。
「掃除に洗濯、料理は……そこそこでよければやります。なのでどうかお願いです。しばらく置いてくださいませんか!?」
神様に縋るように、両手を合わせて必死に頼み込んだ。天澤さんはしばし黙り込み、代わりに消防隊の人たちの声や騒音が耳に入ってくる。
そうして数十秒の間を置いたあと、彼が口を開く。
「じゃあ、俺と結婚しろ」
──け、結婚?
まったくもって意味がわからない言葉を投げかけられ、私は目と口をぱかっと開けた間抜けな顔で彼を見上げる。
「……はい?」
「マンションには航空関係者が何人か住んでいる。見られる可能性は高いし、どうでもいい女を部屋に上げていると思われたくない」



