彼はわざわざ私に声をかけ、出るのを待っていて、私の手を取って連れ出してくれた。言うことはきついけれど、人を助ける温情をちゃんと持っているのだ。
私は彼に向き合い、改めて深く感謝する。
「天澤さんがいなかったら絶対逃げ遅れてました。本当に命の恩人です。今度は生ビール用意しておきます!」
「つまみもな」
「はい」
下僕と化したかのごとく、私は従順に頭を下げた。
ほどなくして消防車が到着し、すぐさま消火活動が始まった。放水している消防隊を眺めながら、天澤さんが口を開く。
「そんなことよりお前、行く当てはあるのか? あの様子じゃしばらくは住めないぞ」
おっしゃる通り、問題はそれだ。それほど燃え広がっているようには見えないが、火元の真上では私の部屋も黒焦げになるだろうし、確実に水浸しになっているはず。
何日も寝泊りさせてくれるような友達は近くにいないし、ホテル暮らしする金銭的余裕もない。火災保険には入っていたはずだから、修繕や家財の補償はされるんだろうけど……。
と、そこで重大な問題に気づき、はっとした。



