俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】


 私の真下の部屋が火元らしく、ベランダから煙に交じってかすかに炎が見えてぞっとした。

 天澤さんがいなければどうなっていたか。ひとまず無事でよかったが、部屋が被害を受けるのは避けられないだろう。

 ああ、信じたくない……引っ越したばかりなのに……。

 黒い煙が上がるのを呆然と眺めていると、彼はいたって涼しげな顔でひとりごつ。


「火災報知器を信じようとしない人間がいるとは。こんなに危機管理能力の低いヤツがオペレーションやってて大丈夫か」
「うっ」


 きつい言葉がグサグサと胸に突き刺さるけれど、そう言われても仕方ないのでなにも反論できない。そして〝人間〟が〝バカ〟に変換されて聞こえる。

 火事だけでなく自分の不甲斐なさにもダメージを受けつつ、私はうなだれたまま話しかける。


「天澤さんはとっても落ち着いていらっしゃいますね……」
「これくらいで焦っていたらパイロットなんてできない」
「ですよね……さすがです」


 パイロットはどんな緊急事態時にも冷静に対処しなければならない。これまでのフライト中に過酷な状況になったこともあるだろうし、それに比べれば今回の火事は動揺するほどでもないのかもしれない。