一方、父は彼の言葉が意外だったのか、戸惑っているように感じる。
「千里くん……もっと恨み節を言ったっていいんだぞ? 今日は殴られる覚悟もして君と会っているんだ」
大袈裟だけれど真面目な父に、千里さんは一瞬目を丸くしたあと、ぷっと噴き出した。
「そんなことしませんよ。あなたは、俺の大切な人の父親ですから」
彼の口からこぼれる柔らかな声に、優しく胸が鳴る。
「つぐみを愛したから、許せるようになったんです。彼女を悲しませたくはない。俺がやるべきなのは、彼女が一生幸せでいられるよう努めることです」
愛情を感じられる言葉の数々が、じんわりと心に沁み込んで泣きそうになった。最初は愛などなかった千里さんが、いつの間にかそんなふうに想っていたなんて。
「君は、そこまでつぐみを愛してくれているのか……」
感銘を受けたような父の声が響いた。彼は一度鼻をすすり、千里さんをまっすぐ見つめる。
「ありがとう。あの子を、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる父と、それに応える千里さんの姿に胸がじんとする。ふたりがきちんと和解できて本当によかった。



