翌日の午後十二時、私たちは予定通り山梨の甲府市にある実家にやってきた。
例の件のせいもあるけれど、単純に好きな人を両親に紹介するというのは緊張する。そわそわしながら玄関のドアを開けた。
「ただいま」
「おかえり、つぐみ!」
待ち侘びたようにパタパタとスリッパを鳴らしてやってきたのは母だ。その後ろから、強張った表情の父がついてくる。
母は久々に会った娘よりも、千里さんをまじまじと見て目をキラキラさせている。〝本当にイケメンだわ!〟という心の声が聞こえてきそう。
今日はジャケットに黒いパンツを合わせた品のいいスタイルの彼が、綺麗に一礼をする。
「はじめまして、天澤千里です。ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません」
「いいのよ~、つぐみを大事にしてくれていればそれで。ねえ、お父さん」
のほほんと笑う母が父に振るので、私たちもそちらに目線を移す。
「……君が、千里くんか」
千里さんを見つめる父の声は、表情と同じく固い。愛娘である私を取られたせいだろうと思ったが、どことなくそれだけではないような気がする。



