午後五時の羽田空港はようやく雨が上がり、規則正しく並んだライトの明かりが濡れた滑走路に映っている。帰る前に使用後の会議室の片づけを頼まれた私は、静かなその場所からひとり窓の外を眺めていた。
エンジン火災の件は、まだ定かではないものの部品の金属疲労が原因ではないかという話だ。誰のせいでもない事故だと思うが、本当に恐ろしい。
千里さんたちはあれから事故調査委員の調査を受けたり、機体の点検をしたりと事後処理も大変だったことだろう。もうオフィスに戻ってきているだろうか。
……早く会いたい。強く抱きしめてぬくもりを確かめたい。
時間が合えば一緒に帰ろうと思いながらオフィスに戻ろうとしたそのとき、会議室のドアが開いて誰かが入ってきた。
振り向いた私は、心臓が飛び跳ねると同時に大きく目を見開く。いつもの制服姿が最高に輝いて見える旦那様がそこにいたから。
「せ、千里さん、なんで……!?」
「ここにいるって妹尾に教えてもらったから」
あんなトラブルのあとでも涼しげな顔をしている彼は、ドアを閉めてこちらに歩み寄り、あっという間に私を引き寄せて抱きしめた。



