さらに、滑走路を進んでいくスピードは通常より早く感じる。速度を落とすための逆噴射装置は正常な左エンジンのほうしか使用できないし、やはりブレーキが効いていないようだ。
「減速して……」
美紅さんが切実に呟き、私は目をつむってひたすら祈る。
お願い、どうか皆を無事に帰らせて──。
十数秒後、周りから声が上がる。
「止まった!」
「ナイスランディング!」
歓喜の声と拍手が起こった。開いた私の目に、滑走路の端のほうで無事停止した機体が映る。消防車が近づいていくが、火災も起こっていないようだ。
無事に到着した……。
安堵で力が抜け、一気に涙が溢れた。堪えきれず子供みたいに泣く私の頭を美紅さんがわしゃわしゃと撫で、部長たちが「君の旦那もヒーローだな」と笑いかける。
エンジンの損傷は酷かったが、負傷者はゼロで全員安全に降機したという情報が入ったのは、それから数十分経ってからだった。



