『安心して待ってろ』
今朝家を出る前、彼にかけられたひと言と優しい笑みが頭の中に蘇る。副操縦士としての彼の手腕は人並み以上なのだと自分に言い聞かせると、徐々に胸のざわめきが落ち着いてきた。
大丈夫……千里さんたちならきっと、この危機も乗り越えられる。日本アビエーションきってのふたりだもの。彼らを信じて、私は私にできることをしなくちゃ。
NA185便が緊急事態であり、滑走路上で停止する可能性があることを無線で次々に知らせていく。それが一段落したとき、美紅さんが私の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「頼もしくなったわね、つぐみちゃん」
私の心情を察しつつ優しく声をかけてくれる彼女に、一瞬気が緩んで涙が込み上げそうになるも、なんとか涙腺を引きしめて業務を続けた。
しばらくして、ブレーキシステムに不具合が起こっていること、ギアが作動しない可能性もあることなど、新たな情報が入ってくる。千里さんが操縦を代わったらしいという話も。
「火災に加えてオーバーランの危険もあるとは……」
「しかも、燃料は少ないから着陸のやり直しは効かない。パイロットのテクニックに懸かってるな」



