俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】


 しかし空港に向けて降下しようというとき、旋回していないにもかかわらず機体の傾きが大きくなっていると計器を見て気づく。


「キャプテン、機体が左に傾いています」


 すぐに報告すると、はっとした様子の真柴さんは傾きを修正するも、苦虫を潰したような顔を見せる。


「くそ……バーディゴか、こんなときに」


 悔しそうに呟かれ、やはりそうかと俺も眉根を寄せた。

〝バーディゴ〟とは空間識失調のことであり、上下の平衡感覚が狂ってしまう状態をいう。ぐるぐる回るとまっすぐ歩けなくなる、あの状態に近い。

 雲や霧の中、夜間の飛行など視界不良の際に突然起こるもので、ベテランパイロットでも誰でもなる可能性がある。

 これに陥ったとき、自分の感覚は無視し、計器を信じて操縦する対処法もある。しかし、これはとても恐ろしいことだ。

 墜落するのではと感じる状況が実際には正しいため、〝万が一計器が間違っていたら死ぬ〟と思いながら操作しなければならないのだから。

 バーディゴは時間が経てば自然に治るものだが、視界不良は滑走路付近まで続くだろう。もうすぐ着陸態勢に入る今、回復を待ってはいられない。