俺様パイロットは契約妻を容赦なく溺愛する【極上悪魔なスパダリシリーズ】

 私にはふたりの兄がいる。ひとりは仕事で海外に行っていて、もうひとりは去年結婚して今は別の場所で暮らしている。二番目の兄とも五歳離れているので、皆とても可愛がってくれた。

 彼もそれをすぐに察したらしく、小さく頷く。


「あなたが可愛くて仕方ないんでしょうね」
「もういい歳なのに、呆れちゃいますよ」


 二十代半ばになっても溺愛してくる父を思うと、苦笑ばかりが漏れる。

 いつまでも過保護な父からはいい加減に離れたい。学生時代からそう思っていたため、就職を機にようやく念願のひとり暮らしを始めたのだ。今の生活が気に入っているから、しばらく家に帰るつもりはない。

 だから結婚なんて言われても困るのよね……と内心ため息をつき、オフィスビルの前に着いたところで彼に向き直って謝る。


「ごめんなさい、会ったばかりでこんなつまらない話して」
「いいんですよ。これから神経張り詰めなきゃいけないし、今くらいは別のことを考えていたいので」


 とても快く返してくれたが、神経を張り詰める仕事とは一体なんだろう。