反省しつつ片手でバッグの中から社員証を取り出そうと試みるも、やはりうまくいかずに落としてしまった。私が忙しくしているその間にも、父は呑気に話し続けている。
『そういえば、父さんの知り合いの息子さんがすごくいい人でな。つぐみの写真を見せたら気に入ってくれているみたいだったぞ。どうだ、ここいらで結婚──』
「絶対やだ」
しゃがんで拾おうとしたものの、勝手な言葉が聞こえてきたので動きを止めて断固拒否した。〝ぜ〟が〝ずぇ〟になるくらい強調して。
「今の仕事辞めるつもりはないし、まだ結婚も考えられないから。悪いけど、孫の顔が見たいならお兄ちゃんに期待して。じゃあね!」
『つぐみぃ~』
早口でまくし立てると、父の情けない声を途中で遠慮なく切った。
不規則で責任も大きい運航管理の仕事をしていることを、父はあまり快く思っていないのだ。結婚して家庭に落ち着くのを望んでいるのだろうが、生憎私にその気はこれっぽっちもない。
親孝行は別の形でするからと心の中で宣言し、ため息をつきながらスマホをバッグにしまう。そして社員証に手を伸ばそうとしたとき、私より早く誰かの手がそれを拾い上げた。



