彼女のように思うのが普通だし、私だけが好きでいたって幸せになれないとわかっている。それでも、離れたくないのが正直な気持ち。
千里さんはどう返すのだろう。注目していると、彼の口がおもむろに動く。
「心配しなくても、終わりにしようと思っていたところだ。帰ったらつぐみと話す」
──冷たく重々しい声が、私の胸に深く沈み込んだ。
終わりにする……この結婚生活を? 千里さんの話ってそのこと?
離婚はしないって約束したのに、どうして。指輪もくれたばかりじゃない。私との生活が苦になってしまったの? ……嫌だ、考えたくない。
耳が勝手にシャットアウトしたかのごとく、もう彼らの会話は入ってこなくなった。私は逃げるように階段を駆け上がり、人がいなくなったエレベーターから再び下りる。
そこからは放心状態で、気がついたらマンションの前に着いていた。
彼も帰ってきたら、別れ話を切り出されるかもしれない。そう思うと部屋に入るのがためらわれ、エントランスから続いている庭園のほうにふらふらと逸れた。



