なんとなく違和感を覚えていると、千里さんが無表情のまま返す。
「前も聞いたし、断ったはずだ。それに、もう結婚してるんだけど」
「その結婚には、なにか裏があるんじゃないですか?」
追究するような玲香さんの言葉に、私はギクリとした。
裏……はある。私たちはお互いの利益のために結婚した契約夫婦なのだから。
でも、なぜそれに気づいたのだろう。千里さんも私と同じことを感じたらしく、訝しげに言う。
「どうしてそう思う」
「なんとなく……女の勘で。柊ちゃんを見ていておかしいなって感じたんです。あの人、天澤さんとつぐみちゃんを異様に気にしているので、単なる恋愛結婚ではないんじゃないかと」
玲香さん、鋭い。確かに、以前から泉さんは私たちの事情を知っていて気にかけてくれていたし、なぜそこまで心配するのかと疑うかもしれない。この間の食事会でそう感じたのだろうか。
黙っている千里さんに、玲香さんはまっすぐ向き合って淀みのない声を投げる。
「もし、ふたりの間に愛がないなら別れるべきです。お互い、幸せになれる最適な相手が他にいるはずですから」
きっぱりと告げられた言葉で、私の胸も揺さぶられる。



