午後七時、夕飯の食材を適当に買ってマンションに帰宅した。ひとりきりの部屋は、やっぱり物寂しい。
明かりを点けておもむろにリビングに向かいながら、千里さんとの無線のやり取りを思い返す。
連絡事項は漏れなく伝えて通信を終えようとした直後、『それと』と続けられたので、今度こそ情報を聞き逃すまいと耳を澄ませた。
『ハッピーバースデー』
聞こえてきたのは、思いもよらないひと言。
私は完全に思考が停止して、「……え?」とまともな返事もできずに固まってしまった。無線はその言葉を最後に切られて静かになる。
呆然としたまま、デスクに置いてある卓上カレンダーに目を向け、日にちを確認した。今日は八月十三日、私の二十五歳の誕生日だ。
私自身すっかり忘れていたのに、まさか千里さんが覚えていたなんて。教えたことはないから、おそらく婚姻届を見て知っていたのだろう。
あれは幻聴だろうかと疑いたくなりつつリビングにやってくると、ローテーブルの上になにかがあるのに気づく。



