お手洗いに行って、鏡に映る泣きそうな自分を叱咤し、少しだけ外の飛行機を眺めて気を落ち着かせてからオフィスに戻る。
ドアを開けて中に入ったところ、ブリーフィングを終えた千里さんと機長がこちらに向かってきていた。
胸が苦しくなりつつ、機長に挨拶をする。続いてやってくる千里さんとは、合わせる顔がなく俯きがちにただ会釈をしようとした。しかし……。
「つぐみ」
すれ違いざまに呼ばれ、ドキリとする。
「気持ちを切り替えろ。飛行機、一緒に飛ばすんだろ?」
先ほどよりも若干柔らかくなった声にはっとして顔を上げると、彼の厳しい表情の中にかすかな信頼が見えた気がした。
……ああ、失望されたわけではないのかもしれない。さっきのきつい言葉は、私が二度とミスをしないよう彼なりに戒めてくれたのだと、今さらながら理解する。
再び緩みそうになる涙腺を引きしめ、「はい」としっかり返事をする。それを見届けた千里さんは、もうなにも言わずにオフィスを出ていった。
今日はこのあと、千里さんが乗るシンガポール行きの便のオペレーションを担当する。美紅さんは「大丈夫、これで挽回しよ!」と心強い声をかけてくれたので、気合いを入れ直す。
千里さんがくれた言葉も噛みしめ、意を決して業務を再開した。



