あれは、まだ小学生の頃。週刊誌の記者をしている父は飛行機に乗る機会が度々あり、私もよく空港に連れて行ってもらった。
ランウェイを飛行機が徐々に加速し、ゆっくり機首を持ち上げて飛び立つ瞬間を、展望デッキで初めて目にしたときの感動は忘れられない。とにかくカッコよくて、航空の世界は一瞬で私の憧れになった。
「この業界に私も関りたいと思った最初のきっかけは、やっぱりそれですね」
あのときの高揚感が蘇り、自然に表情がほころんだ。
私の話に耳を傾けていた天澤さんは、再び前方へ顔を向ける。その表情はとても穏やかに見えるものの……。
「……つまんねぇな」
「はっ!?」
「俺と同じだなんて」
心無い言葉が返ってきたので物申そうとした直後、すぐに意外なひと言が飛び出したので私は口をつぐんだ。
天澤さんも、パイロットを目指したきっかけは飛行機のカッコよさに憧れたからなの? もっと大層な理由があるのかと思っていたけれど、わりと単純なものだったんだ。
マンション以外にも彼との共通点があるとわかり、私の口元が緩む。
「同志じゃないですか。なんか嬉しい」
ふふっと笑ってそうこぼすと、天澤さんはいつになく人間味を感じる瞳で私を一瞥する。次いでこちらへおもむろに手を伸ばし、私が持っていた残り少ない缶をすっと抜き取った。



