「聞きたいことがある。寝ぼけた状態でちゃんと答えられるか不安だが……」
電話をした目的はそのためなので、あまり期待せず一応本題の質問をしてみる。
すると、思いのほか自信満々に答えが返ってきて驚いた。これなら大丈夫かもしれないと、彼女の言葉を信じることにする。
あっという間に用件は済んだので、「じゃあ、また」と告げて通話を終えようとした、そのとき。
『ちゃんと帰ってきてくださいね、私のところに。ほかの人のところに行っちゃ、嫌……』
眠る寸前のような、まどろっこしい喋り方で呟かれた言葉が、不覚にも胸に突き刺さった。
──ああ、なんで可愛いと思ってしまうんだ。寝ぼけて甘えられただけで。どうしてこの子は、こんなに冷たい俺のために一途になれる?
胸が甘くざわめく感覚はいつぶりだろうか。もどかしくて仕方なく、前髪をくしゃりと掻き上げる。
ずっといてもいいと思えるほど美しいこの街から、早く帰りたいと願ってしまうとは。
「……どうかしてるな、お前の顔が見たくなるなんて」
自分に呆れた調子でひとりごちると、『ほぇ?』と間抜けな声が聞こえた。それに構わず、「おやすみ」と言って通話終了のボタンをタップする。



