怒っているとまでいかなくても不機嫌なのは確実だ。真柴さんの件に対してだろうか。それとも、妻が男性と一緒にお酒を飲んでいたから?
どれも当てはまる気がするので、とりあえずすべてひっくるめて「お手数をおかけしてすみませんでした」と謝った。業務中みたいだけれど。
マンションまでは十分ほど。あっという間に着いて駐車場に入る頃、千里さんはひとつ息を吐いてようやく話し出す。
「宮路が勝手に男も呼んだらしいから仕方ないが、もし泉がいなくて、まだ酒を飲み続けていたらどうなっていたかわからない。お前も一応女で、人妻なんだって自覚を持っておけよ」
不機嫌の主な原因はその辺りだったらしく、口調に棘がある。なんだかあまり信用されていないみたいだし、〝一応〟が余計じゃない?
じわじわとイラ立ちが湧いてきて、私は膨れっ面になって反論する。
「ちゃんと自覚してます。私、不貞を働くような女じゃありませんよ」
「お前にそんな器用なマネはできないだろうな。色気もないし」
うわ、はっきり言った! 超失礼!
ぎゅっと眉根を寄せて彼のほうを向くと同時に、車を停めてシートベルトを外す音が聞こえる。



