どういう意味だろう。千里さんは正直になるのをセーブしていたということ? 彼の気持ちって……なに?

 千里さんは意味を理解しているらしく、一瞬目を見開いた。そして、苦しげとも切なげとも取れるような、影を落とした表情に変わっていく。


「……余計なお世話だ」


 彼は言葉とは裏腹に力無く呟き、踵を返す。

 ふたりにしかわからない会話が気になって仕方ないが、ただごとではなさそうな空気を感じる。その中に割り込む勇気は出ず、私は手を引かれるまま黙って歩き出した。

 地下の駐車場に向かう間、ふたりの会話について考えを巡らせていたが、私にわかるはずもなく断念した。まだ私の知らない千里さんがいる──それを痛感して落ち込むだけだから。

 ひとまず今は、改めてお礼を言おう。


「千里さん、迎えに来てくれてありがとうございました」


 彼の車に乗り込み、落ち着いたところでぺこりと頭を下げた。しかし彼は特に反応せず、無言で車を走らせる。


「あの……怒ってます?」
「別に」


 素っ気なく即答され、私は口の端を引きつらせた。絶対怒っている。