〝セミのお礼〟とはそういうことだ。ささやかながら、このお酒を差し上げたい。
パイロットはフライトの十二時間前から飲酒は禁止だが、まだ七時だし明日は早朝のフライトではないはずだから飲んでも大丈夫だろう。
ところが、天澤さんは呆れたような顔を向けるだけで受け取ろうとしない。
「別になにもしてないだろ。それに俺、生しか飲まないから」
「金持ち発言!」
お礼するどころか、軽く身体を引いて声を上げてしまった。こっちは安いリキュールで我慢しているっていうのに、さすがは高給取り……。
私はちょっぴりふてくされて、第三のビールをぐびぐびと喉に流し込んだ。
しばらくして、柵に肘をかけたまま空を眺めていた天澤さんが口を開く。
「蒼麻は、なんでオペレーションをやろうと思ったんだ?」
突然、真面目な様子で問いかけられてキョトンとする。天澤さんが私のことを聞いてくるなんて初めてだ。
意外に思いつつも、頭の中で考えを巡らす。
「……私も飛行機を飛ばす一員になりたかったんです」
しばしの間を置いて答えると、彼の瞳が静かにこちらに向けられた。



