表情を曇らせて困っていると、千里さんが口を開く。


「真柴さんに限らず、男も来るって知っていたら最初からつぐみを行かせなかった」


 苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる彼に、ドキリと胸が鳴る。

 千里さん、私を心配してくれていたんだ……。よく思い返せば、テラスにやって来たときの彼は珍しく焦っていた気がする。急いで駆けつけてくれたのかもしれないと思うと、ますます胸が騒がしくなった。

 酔っているせいではない頬の火照りを感じていると、千里さんは私の手を取る。


「泉には感謝する。教えてもらえてよかったよ」
「本当に、ありがとうございました」


 千里さんがその場をあとにしようとするので、私も慌てて頭を下げた。そうして去ろうとしたとき、「なあ、千里」と泉さんが声を投げかける。

 私たちは足を止めて同時に振り向いた。その先にいる彼は、どこか深刻そうな面持ちで千里さんを見つめている。


「もういいんじゃないか、自分の気持ちに正直になっても」


 重い口調で発したひと言が耳に入ってきて、酔いも浮ついた気持ちもスッと醒めていく。