今のって、適当にやり過ごすためのデタラメだよね? それにしては妙に具体的というか、リアルというか……本当にそう思ってくれているのではないかと錯覚しそうになる。
堪えても嬉しさが込み上げてきて、私は彼のシャツをきゅっと握った。
そうして店内の出入り口に向かっていたとき、見計らったかのごとくお手洗いがある通路のほうから泉さんが姿を現した。眼鏡の奥に含みのある笑みを湛えて。
「やっぱり来たね、千里」
千里さんが来るのがわかっていた口ぶりの彼に、私は目をしばたたかせる。
「やっぱりって……」
「さっき僕が連絡しておいたんだ。真柴さんも来てるけど、つぐみさんを放っておいていいのかって」
「そうだったんですか!」
意外な真相に驚いてふたりを交互に見やると、千里さんは居心地が悪そうに仏頂面をしている。泉さんはそんな彼を一瞥してクスッと笑いをこぼし、私たちを店の外へと促した。
レストランの賑やかさから切り離されたそこで、泉さんは腕組みをして話し出す。
「真柴さん、つぐみさんを追っていったでしょう。君が席を立った直後に同僚から電話がかかってきて、彼を引き止められなかった。ずっと注意していたのに」



