ちょっと怖いな、真柴さん。あんな黒い一面を持っている人だったんだ。でも今はそれより、なぜ千里さんがここに来たのかが気になって仕方ない。場所は教えていなかったのに。
「千里さん、どうしてここに?」
「……お前の夫だから」
彼からの返答は漠然としたもので、いまいちよくわからない。
首をかしげているうちにテーブル席に着く。泉さんが席を外しているようで姿が見えない。ほかの皆はいまだに盛り上がっていて、千里さんはその前にためらうことなく登場した。
突然現れた彼を見上げた皆が一瞬静かになり、直後に控えめな叫び声が上がる。特に女性陣は芸能人に会ったかのようなリアクションだ。
「ええっ、あ、天澤さん!?」
「妻を迎えに来ました。すみませんが、お先に失礼します」
千里さんは私の代わりにそう言い、テーブルに多めのお札を置いた。お代を払ってくれたことにも呆気に取られているうちに、彼は私の肩を抱いてそそくさと帰ろうとする。
すると、玲香さんがガタッと椅子を揺らして立ち上がり、「天澤さん、ひとつ質問が!」と呼び止めた。



