やや面食らったような顔をしていた彼は、数回瞬きをしてから口を開く。
「……やっぱり可愛いね、つぐみちゃん」
「っ、はい?」
突拍子もない言葉が飛び出し、私は肩透かしを食らった。今しがたの悪い彼はどこへやら、いつもの調子でへらりと笑う。
「ごめんね、酔いに任せてちょっと言いすぎた。でも感動しちゃったよ、旦那のことでそこまで本気で怒れるなんて」
真柴さんは人当たりのいい姿に戻っているけれど、私は警戒したまま。すると彼は含みのある笑みを見せ、こちらに向かって一歩足を踏み出す。
「君は、天澤にはもったいないくらいのいい奥様だ。奪いたくなるな」
「……はっ!?」
怪しい発言と、また一歩近づいてくる彼にギョッとして、私は反射的に身体を引いた。
その瞬間、足がふらついてバランスが崩れる。「あっ」と小さな悲鳴がこぼれた直後、真柴さんが咄嗟に手を伸ばして支えてくれた。
「おっと、大丈夫?」
「すみません……!」
腰を抱かれて肌が粟立ち、すぐに離れようとするも身体に思うように力が入らない。頭に血が上ったせいで酔いが回ったんだろうか。



