「ねえ、天澤のどこがよくて結婚したの? やっぱりスペック?」
「いや、そんな──」
咄嗟に否定しようとしたものの、私が結婚を決めた理由を思い返すと言葉が喉に詰まった。
私は、金銭的に千里さんに助けてもらいたくて結婚した。それはつまり、彼の中身ではなくスペックで選んだも同然なのではないか。
黙り込む私を、彼は見つめ続けている。その瞳はどことなく冷たく、鋭くなっている。
「一緒に仕事していて感じるんだけど、あいつはプライドが高いし主導権を握りたいタイプだから、いい旦那になると思えなくてさ。パイロットたちの中で天澤がどんなふうに思われているか、君は知らないでしょう」
私がぴくりと反応を示すと、彼は冷笑を浮かべた。急に人が変わったみたいで、背筋がぞくりとする。
「腕がいいからって天狗になっているのか、機長命令は絶対にもかかわらず口を出すコーパイは天澤くらいなんだよ。フライト中に関係が悪くなるとずっと気まずい雰囲気を引きずったままになるから、あいつと組むのを嫌がる機長もいる。旦那がそんな男って嫌じゃない?」
聞いてもいないのにつらつらと語られ、胸の中に不快なざわめきが湧き起こった。



