トイレに行こうと腰を上げた瞬間、少しだけふらついたのを泉さんは見逃さず、心配そうに確認する。
「つぐみさん、大丈夫?」
「大丈夫、普通にお手洗いに行くだけです。とってもいい気分なので安心してください」
表情筋が緩みまくっている顔でへらりと笑って席を立った。身体がふわふわした感覚はあっても、ちゃんと歩けるので問題ない。
用を足したあと、パウダールームで腕時計を見ると午後九時を回っている。まだお開きになりそうな気配はなかったが、私は明日も仕事なのでそろそろおいとましたいところ。
席へ戻る途中、出入りが自由になっているテラスがあると気づく。帰る前に酔いを醒ますため少しだけ出てみようかと、ガラスの扉を開けた。
「はぁ~、気持ちいい」
夏の夜風が心地よく、周囲に立ち並ぶビルの明かりに包まれているような感覚に陥る。マンションから見る夜景とはまた違っているし、幾分か頭がスッキリする。
タイミングがよかったのか、離れた場所にひと組の女性たちがいるだけ。気を落ち着けて静かに夜景を眺めていたとき、扉が開く音がした。



