千里さんのご両親も、きっと元気で幸せに暮らしているのだと勝手に思っていた。
お父様は亡くなり、お母様も身体が不自由で施設に入っている。自分の身に置き換えれば、彼がつらい思いをしたことは容易に想像がつく。
「そんな大変なことに……つらかったですよね」
目線を落とす私の口からは陳腐な言葉しか出てこない。もっと気の利いたことを言ってあげられたらいいのに。
どんな言葉をかけるのが正解なのかもわからなくて、私は当たり障りのないことを尋ねる。
「お母様の施設には行っていますか?」
「ああ、時間があるときは。俺が副操縦士だってすぐ周りに言うから、行くと皆に群がられて若干困ってる」
「千里さんはお母様の自慢なんですね」
ほっこりするエピソードを聞いて口元が緩む。彼の表情も少し柔らかくなったのを見ると、お母様との関係は良好そうだ。
千里さんがひとりっ子だというのは以前から知っている。たったひとりの彼の家族に私も会いたいと、義務じゃなく心から思う。
「やっぱり私もご挨拶させてほしいです。お母様とお話してみたい。お父様のお墓にも行って報告を──」
「必要ない」
お父様の話を出した途端、千里さんは一気に険しい面持ちに変わってぴしゃりと言い放った。私は息を呑む。



