いつか私も勇気を出してパイロットに告げてみたい。その密かでささやかな夢のために、一日一日少しずつ確実に成長していかなければと改めて心に誓い、リキュールを喉に流し込んだ。
ふと背後から足音と人の気配を感じて振り返った私は、思わぬ人物がこちらに近づいてきていて、驚きで肩をすくめる。
ブルーグレーのサマーニットに黒いテーパードパンツを合わせた、カジュアルな私服姿も文句のつけどころがない天澤さんだ。
「天澤さんっ!? お、お疲れ様です……!」
今会うとは思わずびっくりして、やや挙動不審になりつつ頭を下げた。
私と彼にある接点は、実はお隣さん同士だということ。ハイスペックな彼がまさかこんな薄汚れた……いや、レトロなマンションに住んでいるとは意外すぎるが。
引っ越した際に挨拶をしに伺ったときは、そっくりさんかと思って他人行儀にしていた。ところが、数日後の勤務中に『昨日の夕飯、カレーだっただろ』と当てられ、やっぱり隣人だった!と冷や汗を流したのだ。
ちなみに『匂いにつられて俺もカレーにした』らしく、可愛い一面があることも知っている。これは私だけの秘密だ。なんとなく。



