天井を見上げていた彼は、こちらに戻した目を柔らかに細める。
「いくらでも」
当然だという口ぶりで答えた彼を見て、じわじわと喜びが込み上げた。
これはただの〝もしも〟の話。千里さんも私も、いつかは子供を作ろうと口にしたわけじゃないし、その意思があるのかも定かじゃない。
なのに、こんなに嬉しくて心が温かくなるのはどうして。
くすぐったい気分になるのと同時に、照明が落とされて徐々に暗くなっていく。アナウンスが流れ、いよいよ始まるのだというときになって、私はリクライニングの倒し方がわからずキョロキョロしてしまう。
「あれ? どうやって倒すんだろう」
「そこにボタンがあるだろ」
呆れ気味の千里さんが、こちらに身を乗り出して肘かけの辺りについているボタンを指し示した。「あ、ほんとだ」とへらっと笑ったのもつかの間、間近に彼の顔があることに気づく。
暗がりでもわかる美麗な顔。その切れ長の瞳と視線が絡まり、息を呑む。
時間が止まったかのように思えた次の瞬間、唇にありえない感触を覚えた。優しく温かい──千里さんの唇の感触を。



