「そういえば、結婚指輪……」
ショップの前で足を止めた私は、ふと呟いた。すっかり頭から抜けていたが、結婚指輪はどうするんだろう。
「欲しい?」
隣に並んだ千里さんが、探るような目線をこちらに向けて問いかけるので、私は「そりゃあ欲しいですよ」と正直に答えた。結婚したら薬指に指輪を嵌めたいというのは、女性にとっては普通の願望だろう。
「つぐみにはシンプルなデザインが似合いそうだな」
千里さんはディスプレイを覗き込み、穏やかな声色でそう言った。
そこではっとした私は、ぱっと彼を振り仰ぐ。
「もしや、買ってくださるんですか!?」
「聞いただけ」
あっさりと拍子抜けする言葉が返ってきて、私はがっくりと落胆した。
期待させておきながら与えてくれないという、このドSっぷり! まあよく考えれば、私の生活費も賄っているのにさらに余計な出費をする必要はないしね……。ちょっとでも夢見た私がバカだった。
小さくため息をつき、遠い目をしてジュエリーショップを眺める。



