そして、この物件でもうひとつ気に入っているのが、住民にだけ屋上が開放されていること。特別景色がいいわけではないけれど、羽田空港に離発着する飛行機がよく見られるのだ。

 今日もなんとなく空を眺めたい気分になって帰りに第三のビールを買い、コンビニの袋をぶら下げて誰もいない屋上に上がった。

 七月中旬、午後七時の空はまだ明るさが残っている。夕方から夜に変わるこの時間帯は、日によって空がいろいろな色に染まるから好きだ。

 空港から響いてくるエンジン音を聞きながら缶のプルタブを開けたとき、ちょうど飛び立っていく飛行機を視界に捉えた。

 美しく宙を進む大きなシップ。流れ星のように輝くナビゲーションライトが小さくなっていくのを見つめながら、缶を無線に見立てて口の前に持っていく。


「Have a nice flight, good day!」


 どこか遠くの地に向かうエアラインに向けて挨拶を送り、口元を緩めた。

 私たちが使うカンパニーラジオでのやり取りは、じっくり正確に状況を説明するため日本語が主なので、こんなふうにパイロットに英語で挨拶するのは管制官だけだ。

 でも、とても素敵な挨拶だから誰が言ってもいいんじゃないかと思う。