無色@musyoku_125
皆様にご報告があります。
この度の『ITSUKA』の盗作騒動はすべて、私が自作自演で行ったものです。
私は、『ITSUKA』のMVを製作するメンバーの一人です。『闇の正義ちゃん』『ミヤ』などのアカウントはすべて、私の自作自演で使用したものです。この件に関して───
ITSUKA@ituka_official
この度は、視聴者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。
なお、この件に関しまして、皆様からのご批判があることは当然のものだと受け止めております。今後、皆様の───
【無色 さんのツイートを引用しました。】
最後に、一つご報告いたします。
12月31日 24時に新曲、『創作』をリリースします。
「ああああーーーーー!! やばいやばい終わんない!!」
「うるッせえ弱音を吐くな! その前に手を動かせ!!」
「このまま間に合わなかったらどうしようーーーーーー!!?? ううう……うえっ、」
「そこォ!! 泣いてる暇があるならさっさと描け! 死ぬ気で描け! あと何カット残ってると思ってんだ!! 馬鹿垂れが!」
「……あはは……せっかくの年末に何してんだろうね、私たち……」
「や、やめて~~佐都子ぉ! 正気に戻ったらお終いだよ……!」
「私……この戦いが終わったら結婚すんだ」
「変なフラグ立てんな。僕がいる前でやっぱ出来ませんでしたは絶対に許さないから!」
「纏くんの鬼ぃぃいい」
大晦日、誰もが次にやってくる新しい年に胸弾ませざるを得ない、めでたい日に、『アリスの家』には阿鼻叫喚の地獄が再来していた。
誰も聴いてくれないかもしれない。心無い言葉を浴びせる人も、いるだろう。
それでも、透花たちは今できる精一杯の『創作』を描き上げる。
時には、嫉妬し、苦しみ、辛くなるし、その癖、不完全で、曖昧で、脆くて、ややこしい。
それでも、『創作』を愛さずにはいられないから。
だから、描き続けるのだ。
透花の目が覚めたのは、まだ朝日の昇らない薄暗い時間だった。
「おーーい、お前ら。起きろー」
がさつな呼びかけが、睡眠を妨げたのである。
透花はあまりの寒さに体をぶるぶる震わせながら、家から持ってきた寝袋から顔をひょこりと出してその声の主を確認する。すると、厚手のコートとマフラーに身を包んだ律が、それに気づいて小さく笑った。
「おはよ、透花」
「……律くん、だ」
「わはは、声ガサガサだ。昨日、修羅場だったんだよね? お疲れ様」
乱れた髪をぽん、と律の温かな手が乗っかる。その途端、透花はこの女子力のかけらもない姿が恥ずかしくなって、また顔を寝袋に埋めた。
その間に、物音に気が付いたらしい佐都子と、纏がもぞもぞと動く音がする。纏の不機嫌そうな低い声がする。
「何?」
「ああ~? 忘れたのか? 無事に投稿出来たら、みんなで初日の出見に行こうって、纏が言い出したんだろうが。外でにちかも待ってるよ。ほら、行くぞ~! もうすぐ時間になるから」
わざわざ迎えに来てくれた律に押されるように、徹夜組3人は眠たい目を擦りながら、にちかが用意してくれた缶コーヒーを手に少し急な坂を上る。
辿りついたのは、透花たちが住む町を一望できる高台だ。どうやら透花たち以外には、人気がないようだった。高台の崖に掛けられた手すりの前に立った透花たちは、それぞれに地平線を眺めた。
やがて、太陽は上り始める。目に染みるような燃える赤い火の光が、町中に朝を知らせる。
寒さすら忘れて、透花はその光景に釘付けになった。昨日まではまだ湧いてこなかった達成感と、安堵がじんわりの心の中に広がっていく。
「ねえ、透花」
「ん?」
すぐ隣に立っていた纏が、ふと、透花を呼ぶ。
「僕、ずっと透花のこと守んなきゃって、思ってた。夕爾みたいに、壊れないように守んなきゃって。透花は弱いって、決めつけてた。それを今日、訂正するよ。ごめん」
「纏くん、」
「あっ。それともう一個、前もって謝んないといけないことあるんだった」
「へ?」
そうして、にっと、年相応の悪戯っぽい笑みを浮かべて纏は笑う。
「『創作』のURL、夕爾に送ったから」
「───な、」
絶句したまま固まる透花を他所に、纏は颯爽と走り出す。そして透花が追いつけないほどの距離ができてから、纏は振り返って、両手を口に当てて大きな声を上げる。
「折角、僕が背中押してやったんだ。後は自分で頑張れよ、透花!」
余計なお世話だ、と文句を垂れる暇すら与えないところが、纏らしい。
残された透花は、ポケットに入れていたスマホを取り出した。アプリを起動させ、表示させたアカウント名は『お兄ちゃん』だ。文字を入力しようと、入力画面を親指でタップしてみるものの、何も思い浮かばずに右往左往するだけだった。
こんな朝早くに連絡したところで、迷惑かもしれない。やっぱり、今日は止めようと、スマホを閉じようとしたその時だった。
───ぴこん、と音が鳴った。
表示されたメッセージを目にした瞬間、透花は思わずスマホを落としそうになって、間一髪でスマホを掴む。そして、もう一度透花はその画面を凝視した。
そこに書いてあったのは、本当に、笑えるくらい、短いメッセージだった。
『MV見たよ』
『昔よりずっと、上手くなったな』
気が付いたら、スマホに水滴が落ちていた。おかしいな、と透花はスマホの画面を服の袖で拭うが、すぐにまた水滴がぽたぽたと流れる。それでも、透花は唇を噛み締めながら何度も拭った。
頭上に広がる空は、雲一つなくどこまでも澄み渡っている。けれど、これはきっと雨のせいだ。
「透花―! 今からお雑煮食べに行くって!」
遠くの方で、透花を呼びかける声に振り返る。佐都子たちが集まって、こちら側に大きく手を振っている。
「今行く!」
走り出した透花の瞳から零れ落ちたそれは、流れ星のように煌めいて、跡形もなく消えていった。
朝が来なかったのは、外に出て空を見上げて無かったからだと、その時、透花はようやく気づいた。