透@to_ru 20××/9/23
製作途中。
そのツイートとともに添付された画像は、ほんの一部しか見えない状態になっていたが、確かに『劣等犯』のラストシーンに出てくる構図と一致していた。
言わずもがな、『透』と名乗るアカウントは、透花が使っているSNSのアカウントだった。30人ほどしかフォロワーのいないアカウントの呟きが、今多くの人間にリツイートされ、ネットは大きな波紋を呼んでいた。
「盲点だった。透花がたまに上げてたんだ、『ITSUKA』のイラスト」
バーカウンターにスマホを置いた纏が、上ずった声で言う。
纏を挟むように、律とにちかはそのスマホを凝視した。
「佐都子と打ち合わせして、こっちに向かってる最中に佐都子から連絡入って、教えてくれた」
「ちょ、ちょ、待ってめちゃくちゃ混乱してる。つまりどういうこと?」
頭を押さえて何とか整理しようとするものの、にちかの頭は疑問符で埋め尽くされていた。
「これ見て」
纏はスマホをスクロールして切り替え、次に表示されたのは、盗作をされたとされる例のアカウントである。
無色@musyoku_125 20××/9/30
どうせ、あなたには為れない。
短いツイートともに添付された画像は、炎上の火種にもなった『劣等犯』のラストシーンだ。このイラストと、透花が描いた『劣等犯』のイラストが線から配色まで一致していると、トレパク疑惑が持ち上がったのである。
「ここ」
纏が指さしたのは、ツイートの文言でもなく、件のイラストでもなく───投稿日だった。
「この『無色』ってひとの投稿日は9月30日で、透花が投稿した日は9月23日。確かに、『劣等犯』のMVが初公開されたのは10月のことだけど、透花が『透』のアカウントで『劣等犯』のMVで使うイラストを上げた方が、先。つまり、」
「「盗作してない証拠になる!!??」」
纏の言葉を遮り、律とにちかは声を揃えて立ち上がった。
その勢いに目を丸くした纏が、数秒の間を開け、分かりやすく眉を下げて首を横に振った。悔しいけど、と吐き捨てるように続ける。
「……このイラストに限って言えば、って枕詞が付く」
透花が気まぐれにSNSに上げた『劣等犯』のイラストは、この一枚のみ。それがたまたま、盗作疑惑を晴らすだけに足るイチ証拠にはなるが、現実はそう甘くはなかった。
「今、ネットで『劣等犯』だけじゃなくて、『青以上、春未満』のMVでも疑惑が挙がってる。素人目から見ても、言い逃れは出来ないレベルだと思う」
「……じゃあ」
「今の時点では、全部の盗作疑惑を晴らすだけの材料は、無い」
「そんな」
「……アンチもだんだん作品じゃなくて、作者に攻撃が向き始めてる。コメント欄なんか、目も当てられない誹謗中傷で埋め尽くされてる。正直、引き延ばしするのも、そろそろ限界に近い、と思う」
やり場のない悔しさで、纏は知らず知らずのうちに小刻みに震えるほど拳を固く握りしめた。
1週間。自らが設けた期限まで、あと3日。
結局、たったこれだけの証拠しか見つけられなかった自分の無力さに嫌気が差す。
今、無意味に浪費している時間すら、彼女を追い詰める刃は刻一刻と彼女の心臓を貫こうとしているというのに。
重く、沈んだような空気が流れる中、纏はついに耐え切れなくなって顔を上げた。
やっぱり、もう、と紡ごうとした声を、大きな手が阻んだ。
「っ、ちょ、なに!?」
突然、纏の髪をぐちゃぐちゃに掻きまわしてくる、大きな手を掴んで制止する。
纏の乱れた髪の隙間から、覗き込むように腰を曲げて目線を合わせてくるのは、律だった。
「見切り早えぞ、纏」
ぴん、と軽く纏の鼻を律の人差し指が弾く。
「お前がそんな焦る理由は、分かるよ。ただでさえ、お前頭良くて聡いから。俺らなんかより、何倍も状況も見えてるんだろうよ。でも、今はまだ見切る時じゃない。折角ひとつ証拠が見つかったんだ、それに必死に縋るくらいのみっともない姿晒したって、罰は当たんねえよ」
「……それに納得するだけの、根拠あんのかよ」
「ない! 俺がまだ諦めたくないだけだ」
呆れるほど、簡潔に。
律はあっけらかんとした笑みを浮かべて、胸を張る。
纏の腹いっぱいに膨らんでいた焦燥感が、穴の開いた風船の様に萎んでいく。毒気を抜かれる、とはまさにこのことかもしれない。
二人のやり取りを聞いていたにちかが、ふっと鼻を鳴らして嫌味っぽく言った。
「雨宮だって、さっきまで濡れた子犬みたいにくんくん言ってたくせにね」
「くんくんは言ってねえ!」
顔を赤くした律が慌てて否定するのが可笑しくて、纏は久々に声を上げて笑った。
製作途中。
そのツイートとともに添付された画像は、ほんの一部しか見えない状態になっていたが、確かに『劣等犯』のラストシーンに出てくる構図と一致していた。
言わずもがな、『透』と名乗るアカウントは、透花が使っているSNSのアカウントだった。30人ほどしかフォロワーのいないアカウントの呟きが、今多くの人間にリツイートされ、ネットは大きな波紋を呼んでいた。
「盲点だった。透花がたまに上げてたんだ、『ITSUKA』のイラスト」
バーカウンターにスマホを置いた纏が、上ずった声で言う。
纏を挟むように、律とにちかはそのスマホを凝視した。
「佐都子と打ち合わせして、こっちに向かってる最中に佐都子から連絡入って、教えてくれた」
「ちょ、ちょ、待ってめちゃくちゃ混乱してる。つまりどういうこと?」
頭を押さえて何とか整理しようとするものの、にちかの頭は疑問符で埋め尽くされていた。
「これ見て」
纏はスマホをスクロールして切り替え、次に表示されたのは、盗作をされたとされる例のアカウントである。
無色@musyoku_125 20××/9/30
どうせ、あなたには為れない。
短いツイートともに添付された画像は、炎上の火種にもなった『劣等犯』のラストシーンだ。このイラストと、透花が描いた『劣等犯』のイラストが線から配色まで一致していると、トレパク疑惑が持ち上がったのである。
「ここ」
纏が指さしたのは、ツイートの文言でもなく、件のイラストでもなく───投稿日だった。
「この『無色』ってひとの投稿日は9月30日で、透花が投稿した日は9月23日。確かに、『劣等犯』のMVが初公開されたのは10月のことだけど、透花が『透』のアカウントで『劣等犯』のMVで使うイラストを上げた方が、先。つまり、」
「「盗作してない証拠になる!!??」」
纏の言葉を遮り、律とにちかは声を揃えて立ち上がった。
その勢いに目を丸くした纏が、数秒の間を開け、分かりやすく眉を下げて首を横に振った。悔しいけど、と吐き捨てるように続ける。
「……このイラストに限って言えば、って枕詞が付く」
透花が気まぐれにSNSに上げた『劣等犯』のイラストは、この一枚のみ。それがたまたま、盗作疑惑を晴らすだけに足るイチ証拠にはなるが、現実はそう甘くはなかった。
「今、ネットで『劣等犯』だけじゃなくて、『青以上、春未満』のMVでも疑惑が挙がってる。素人目から見ても、言い逃れは出来ないレベルだと思う」
「……じゃあ」
「今の時点では、全部の盗作疑惑を晴らすだけの材料は、無い」
「そんな」
「……アンチもだんだん作品じゃなくて、作者に攻撃が向き始めてる。コメント欄なんか、目も当てられない誹謗中傷で埋め尽くされてる。正直、引き延ばしするのも、そろそろ限界に近い、と思う」
やり場のない悔しさで、纏は知らず知らずのうちに小刻みに震えるほど拳を固く握りしめた。
1週間。自らが設けた期限まで、あと3日。
結局、たったこれだけの証拠しか見つけられなかった自分の無力さに嫌気が差す。
今、無意味に浪費している時間すら、彼女を追い詰める刃は刻一刻と彼女の心臓を貫こうとしているというのに。
重く、沈んだような空気が流れる中、纏はついに耐え切れなくなって顔を上げた。
やっぱり、もう、と紡ごうとした声を、大きな手が阻んだ。
「っ、ちょ、なに!?」
突然、纏の髪をぐちゃぐちゃに掻きまわしてくる、大きな手を掴んで制止する。
纏の乱れた髪の隙間から、覗き込むように腰を曲げて目線を合わせてくるのは、律だった。
「見切り早えぞ、纏」
ぴん、と軽く纏の鼻を律の人差し指が弾く。
「お前がそんな焦る理由は、分かるよ。ただでさえ、お前頭良くて聡いから。俺らなんかより、何倍も状況も見えてるんだろうよ。でも、今はまだ見切る時じゃない。折角ひとつ証拠が見つかったんだ、それに必死に縋るくらいのみっともない姿晒したって、罰は当たんねえよ」
「……それに納得するだけの、根拠あんのかよ」
「ない! 俺がまだ諦めたくないだけだ」
呆れるほど、簡潔に。
律はあっけらかんとした笑みを浮かべて、胸を張る。
纏の腹いっぱいに膨らんでいた焦燥感が、穴の開いた風船の様に萎んでいく。毒気を抜かれる、とはまさにこのことかもしれない。
二人のやり取りを聞いていたにちかが、ふっと鼻を鳴らして嫌味っぽく言った。
「雨宮だって、さっきまで濡れた子犬みたいにくんくん言ってたくせにね」
「くんくんは言ってねえ!」
顔を赤くした律が慌てて否定するのが可笑しくて、纏は久々に声を上げて笑った。



