見るに堪えない身勝手な言葉が、無責任な言葉が、卑劣な言葉が、親指でスクロールするだけで簡単に流れていく。
 透花はその画面をまるで他人事のように眺める。
 スマホのブルーライトが血の気を失った透花の顔色をより一層青白くさせていた。
 
 肌を刺すような重い空気が、『アリスの家』の一室に流れていた。
 纏に呼び出された『ITSUKA』のメンバーたちは、ただただ永遠にも感じる沈黙の中で険しい顔つきで立ち尽くしている。
 その沈黙を破ったのは、纏だった。
 重々しく椅子から立ち上がった纏は、透花の前に膝を付いた。見上げた彼女の虚ろな瞳が、目の前にいる纏を映すことは無い。
 その色を、纏は知っていた。
 忘れるものか。忘れられるわけがない。
 かつて、同じように壊れていくひとを遠くからただ傍観していた過去の記憶は、今だ鮮明に脳裏に焼き付いている。
 纏の手は勝手に彼女の頬へと伸ばす。流れる黒髪で隠れる透花の死人のように冷たくて白い頬に触れた。

「……透花、」

 透花がスマホから視線を上げる。
 その視線が合わさった途端、纏はぐしゃりと顔を歪めて、その瞳から逃げるように顔を下に逸らした。用意していた言葉が何一つ喉から出てこなかった。情けない掠れた呻き声がきゅう、と鳴る。
 小さく息を吐き出した纏が、もう一度透花に向き直った。力なく落とされた手のひらは、救いを求めるように透花の手を握る。そうして、今にも泣きだしそうな不安定な声音で言った。

「答えて、透花。……透花は、……そんなこと、してないって、言って」

 頼むから。お願いだから、否定して。
 それはまるで、天から降ろされたたった一本の細い蜘蛛の糸に縋るような、祈りにすら聞こえるような声だった。

『劣等犯』のラストに出てくるワンシーンと、とあるアカウントで投稿されたイラストは、重ね合わせれば、線が一致する箇所が何か所もあった。配色すらよく似通っていたのだから、もはや言い訳の余地など、どこにも存在しなかったのだ。
 SNS上では、透花の描いた絵がトレパクだ、と検証した画像が次々に投稿されていた。
 トレパクとは、「トレース」と呼ばれる模写で自分のものと偽って公開することであり、つまりは『トレース』と『パクリ』を組み合わせたネットの造語である。
 発端となったそのツイートを上げた張本人は、透花が盗作をした確たる証拠を追加で何度もツイートしていた。そしてそれもまた、衆目に晒され、既に拡散されていた。
 その中でも───投稿日が決定打になった。
 件のイラストがSNSに投稿されたのは、MVが初公開された『mel』のライブよりも、1か月ほど前だった。
 どちらが先に公開したかだけに焦点を絞れば、透花がそのイラストを盗作するには十分な猶予があったと、小学生でも解ける簡単な問題だ。
 そして、本当の答えを知っているのが透花ただひとりだけ。