『mel』は、日本の動画生配信やカバーした歌動画投稿などを主軸に活動する歌い手。
本名、年齢、性別はすべて非公開。顔出しは一切行わない。10代の中高生からの支持が高く、今後の活動が期待されている歌い手の一人である。
それが、纏の口から伝えられたmelに関する情報の全容である。
「きっかけは、数日前にmelの歌の生配信で青以上、春未満をカバーしたこと。基本的に配信した動画はログとして残されてて、視聴者がSNSとかに切り抜いて上げてもいいことになってんの。で、melの視聴者がその部分をSNSに上げた。それが徐々に反響を呼んで」
「連鎖的に青以上、春未満がバズった……ってことか」
「そういうこと」
テーブルに置かれた纏のスマホから、女性か男性かも判断がつかない中性的でいて、力強く、芯のある歌声が聞こえてくる。
あの夜から一夜明け、アリスの家で緊急会議が開かれた。
議題はもちろん、SNSでITSUKAの曲が大々的に盛り上がりを見せていることである。SNSのトレンドに青以上、春未満が入り、さらにその熱は加速していた。
現在動画の再生回数は、200万回再生。
驚異的な数字を前に透花たちは喜びを通り越して、恐怖すら感じていた。もちろん、ただ一人を除いて。
「今日お前らを呼んだのは、実はその報告だけじゃない」
「これ以上に重大なニュースある?」
「あるよ。お前らが吃驚するような超ド級のニュースがね」
纏は、にやりと狡猾な笑みを浮かべて爆弾を投下した。
「melとITSUKAでコラボする」
沈黙、3秒後。
「「「はあぁああああああ!!!???」」」
✳︎
「昨日の夜にmelから、今度参加するライブイベントでITSUKAの曲を歌わせてほしいって、連絡きたんだ」
何度かスマホをタップした纏が再びテーブルの上にスマホを置く。
透花たちが一斉にスマホを覗き込むと、そこに表示されたDM画面には、確かにmelからメッセージが送られていた。なんとも手回しのいい奴である。
「ライブイベントって?」
「毎年10月末に開催されてる大型野外フェス。来場者数2万強! ここ最近はネットで知名度上げてきた歌い手も出場してる。melはそこで初顔だし、初生歌披露するって前々からファンの間で噂になってた」
「……まさか、そこで青以上、春未満を歌うってこと?」
確かに、話題になった曲を披露すればライブは大盛り上がりだろう。
「透花は僕がそれだけで満足すると思う? 言ったでしょ、コラボするって」
「どういうこと?」
「条件出したの。ライブでの楽曲を使用許可する代わりに、ITSUKAの新曲にボーカルとして参加してほしいってね」
情報量の多さで、言葉を失う三人を他所に、纏は続けた。
「もちろん、ライブで新曲の宣伝も大々的にやってもらう。観客2万人の前で初披露予定! バックモニターにMVも映してもらうよ。撮影オッケーだから、観客には存分にITSUKAの歌をSNSでアップしてもらえばこれ以上の宣伝は無いでしょ!」
完全に魂の抜けきった透花の肩をぽん、と叩き、纏は舌をぺろりと出しながら親指を突き立てた。
「ちなみに全部決定事項だから、そこんとこよろしく」
地獄再来、である。



