「ひな。濡れるから」

私が濡れないように傘を傾けてくれる


「ありがとう。でも、奏くんが濡れちゃうよ」


「僕はいーの」

相変わらず優しい


今日は町外れのカフェに行く


だから、電車ではなくてバスに乗る


バス停まで来ると傘を閉じて屋根へと入る


「うわぁ、お兄ちゃんの腕気持ち悪い」

通りすがりの小学生がそんなことを言う


横に顔を向けると、濡れた制服から透ける痛々しい傷跡が見える


「気持ち悪くなんかないよ。この傷は奏くんの頑張った証なんだから」


「はは。ありがとう」

瞳が揺れる


バスに乗ると、カバンから包帯を取り出す奏くん


「怪我したの?」


「ううん。普通の人がこの傷見ると嫌がるから」

傷を隠すように包帯を巻く


「私がやるよ」


「ありがとう」

しばらくバスに揺られていると


「ひな降りるよ」


「え?」

私の手を引いて、バスを降りる奏くん



「ごめんね。カフェは今度連れてくから」


「ここって、、」


「うん。ひなに着いてきて欲しくて」


ここは、初めて奏くんと会った町



「ひなはさ、この町嫌いだよね」


「うん。だって、奏くんを助けてくれなかったから」



「でも、僕は違うんだ。ひなに出会えた場所で、僕が生きたいと思えるようになったきっかけだから」


「そっか、奏くんは今幸せ?」


「うん。ひなが居てくれて、蘭流が、僕の居場所がちゃんとあるからね」


「ふふ。なら、私も幸せ」