「誠実さ? 女性の心ってなんだ?」

 俺は、窓の外を見たまま、ぼそっと言った。


「気になるようですね?」

「別に……」

 俺は、投げ捨てるように言った。
 気になんて……していない……と、思う……


「真っすぐな気持ちで向き合う事です。素直な気持ちを、きちんと伝える事です」

「……」

 また、しばらく考え込んだ。


「社長がそんな顔をされるのを始めてみました。どんな大きな契約でも、大変な危機の時も決して不安を見せない方ですのに」

「俺が不安な顔など、するはずないだろ?」


 そうは言ってみたが、山下の言うとおり、不安なのだ。俺は、どうしたんだろか? ずっと彼女の事が気になって仕方ない。


「社長。もしかして、その女性の方が、私の事を褒めたから、嫉妬したのでは?」

「嫉妬だと? バカな。ふんっ」

 俺が嫉妬? しかも秘書の山下に? あるわけがない。


 助手席の山下の姿を、じっと睨んだ。睨みながら、また、段々と自信が無くなって行く。

「来月、誕生日らしいんだ……」

俺は、ぼそっと口にしてしまった。


「えっ それは、チャンスじゃないですか? サプライズを考えませんと」

滅多に口を挟まない運転手が、今日はやけに口数が多い。

「サプライズ?」

「そうですよ。相手が喜ぶ事を考えませんと。強引はダメです。そして、心からお祝いする気持ちです」

 山下が俺に言い聞かせるように言ってくる。


「心から祝う気持ち……か……」


「それから、もう一つ」

「はあ? えらく今日は俺に指示が多いんじゃないか?」


「それはもし訳ありません。言葉を慎みます」

「いいから、教えろ!」


「では。社長には冷たく、人を寄せ付けないオーラがあります。好きな女性の前では、笑顔でいませんと。一緒に楽しむ事が大事かと思います」


 俺は、じっと山下の後頭部に視線を送った。

「その目です。女性の前ではいかがなものかと…… 大抵の方が逃げます」


「はあー」

 俺は大きなため息をついた。